ブラックホール

書くことで何かを見つける日々です

『海獣の子供』『プロメア』を観た

海獣の子供』と『プロメア』を観た。テレビでも映画でもアニメはあまり観ないのだが、前者は鉄コン筋クリート』のSTUIDO4℃最新作であり米津玄師の「海の幽霊」をYouTubeで聴いてぜひこれは劇場で聴かなければならないと、後者は『天元突破グレンラガン』の今石×中島コンビ再来とのことでこれは劇場で観なければならないと思い、映画館まで足を運んだ。不勉強なのでアニメの表現についてはあまり大したことは言えないのだが、どちらも音楽が良かった。

海獣の子供』はそもそも米津玄師の主題歌を入り口に観に行こうと思ったので当然なのだが、本編中に流れる久石譲の音楽もかなり完成されていて感嘆した。久石譲といえば「ジブリの音楽の人でしょ?」と返ってきそうだ。もちろんそれは彼の作曲活動の主要なものなのだけれど、久石譲ミニマル・ミュージックに強い影響を受けた作曲家でもあり現代音楽の作曲も特に近年は精力的に行なっている。本作において彼は映画音楽というメディアで音楽の現代性を誠実に追求している。YouTubeにアップロードされているメイキングインタビューでは状況や心情に合わせた一般的な映画音楽の作法とは異なる仕方での制作を行ったと語っており、実際に楽曲を聴いてみれば説明的な音楽から程遠いことがすぐにわかるだろう。全てから距離を取ることによって観客の想像力を喚起するのだ。限られたモチーフの折り重なりと和音の推移によって音楽を聴く人がそこに心や景色を観るという豊かな関係性を彼は作ろうとしている。

↑このインタビューを聴かせたい演劇関係者が2万人くらいいる

そして、劇中で一連の楽曲群に連なる形で流される主題歌「海の幽霊」もこれまた凄まじい楽曲だ。米津玄師の育てた芽を豊かな実にしたのはオーケストラアレンジの坂東祐大。彼は映画やアニメの音楽制作から現代音楽アンサンブルの主宰まで幅広い活動を行なっている作曲家で、「海の幽霊」ではその手腕が遺憾なく発揮されている。激しいポルタメントや特殊奏法によって海の声を表現しつつ、管楽器と弦楽器の音質の差を高い精度でコントロールし、オーケストラだけで独自の世界を作り出している。例えば、Jacob Collierの「With the Love in My Heart」のようにポップスと融合した新たなオーケストラのあり方を提示していると言えるのではないか。

youtu.be

みんな『プロメア』のこと覚えてる?『プロメア』は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の今石洋之(監督)と中島かずき(脚本)のコンビで一言で言えば「熱い」映画で、松山ケンイチ堺雅人が熱い演技を繰り広げつつ、これまた熱い歌手のSuperflyが主題歌を務めている。これがまた良くてね、劇中ここぞというところで使われる「覚醒」は蔦谷好位置が編曲・プロデュースを担当しているんだけれど、サウンドデザインやビートの使い方がちょーかっこ良い。勝手に蔦谷好位置は優しい音楽を作るイメージだったのだけど、この曲ではピアノを核にしつつ力強いギターやドラム、ベースが熱い男と男の戦闘を後押しするようなサウンドをつくり出している。中でも、呪文のような言葉を歌うパート(彼女なりのマントラで特に意味はないらしい)が印象的で、変拍子の用いられたドライブ感のあるアレンジが最高。エンドロールで流れる「氷に閉じ込めて」は中田裕二松岡モトキがアレンジを務め、彼女らしい伸びやかなバラードに仕上がっている。

↑「覚醒」が使われているシーンの一つ

 

声優のこととかストーリーのこととか書きたいことはいくらかあるけど、あんまりまとまりはしなさそうなので各位映画館に足を運んでもらって感想を話しましょう。